「ネガティブ思考」の部下に「ポジティブ思考」を指導するのは本当に適切か
- 大須賀信敬/組織人事コンサルタント
- 3月16日
- 読了時間: 5分
大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
ビジネスパーソンはポジティブな思考様式を備えることが必要だといわれる。そのため、ネガティブ思考の人材に対しては、組織リーダーがポジティブ思考を教育することも多い。しかしながら、ポジティブ思考の指導は、どのようなケースに対しても例外なく有効といえるのだろうか。今回はこの点を考察してみよう。

ビジネスパーソンに求められる「ポジティブ思考」
どのような物事にも、プラス面とマイナス面が存在するものである。どちらの側面に重きを置くかは思考様式によって異なり、ポジティブ思考の場合はプラス面に、ネガティブ思考の場合はマイナス面に着眼しがちである。
そのため、例えば上席者から難易度の高い業務を任された部下がネガティブ思考の場合には、「失敗したらどうしよう」「残業時間が増えてしまう」などの “後ろ向きの感情” に捉われがちである。一方、ポジティブ思考の部下は難易度の高い業務のプラス面に着眼し、「仕事の幅を広げるチャンスが巡ってきた」「経験値を増やす絶好の機会になる」などの “前向きな感情” を持つことが可能である。
このような事情から、ビジネスパーソンは物事のプラス面に着眼することが重要であり、そのためにはポジティブ思考が有効だといわれる。その結果、マイナスに物事を認知しがちなネガティブ思考の部下には、ポジティブ思考を教育することが重要だとされている。
「ネガティブ思考」が良い結果を生むことも
ところで、ネガティブ思考の部下に対しては、例外なくポジティブ思考を指導することが有効なのだろうか。
具体例で考えてみたい。若手社員のAさんが上席者から社内プレゼンの担当を命じられたとしよう。指定された資料を作成し、社内関係者の前で説明をしなければならない。
しかしながら、Aさんはネガティブ思考のため「失敗したらどうしよう」「上手くできるはずがない」などと不安で仕方がない。そこで、Aさんはあらゆる可能性を想定し、入念にプレゼン資料の作り込みを始めた。
ネガティブ思考であるが故に、資料を作成していても「〇〇と質問されたらどう答えよう」「△△を追求されたらどう対応しよう」などと心配事が尽きない。そのため、資料は何度も繰り返し作り直す結果となった。
また、プレゼンのリハーサルも上席者が「そこまでやらなくてもいいのに」と思うほど徹底的に行い、当日のプレゼン内容を身体に覚え込ませた。その結果、図らずもAさんのプレゼンは問題なく終了したのである。
もしも、このような仕事ぶりのAさんに対し、上席者が「もっとポジティブに考えて、リラックスして取り組みなさい」などと指導していたらどうだろう。準備が疎かになってプレゼンを失敗するなど、逆効果になりはしなかっただろうか。
『前向きな行動に繋がるネガティブ思考』もある
ネガティブ思考には二種類あるといわれる。『 “非建設的な行動” に繋がるネガティブ思考』と『 “建設的な行動” に繋がるネガティブ思考』である。
『 “非建設的な行動” に繋がるネガティブ思考』とは、物事のマイナス面に着眼した結果として “後ろ向きの行動” を選択するケースである。前述の事例であれば、上席者から社内プレゼンの担当を命じられたAさんが「プレゼンなんて私にはまだ無理です」などと言って断るようなことがあれば、『 “非建設的な行動” に繋がるネガティブ思考』といえよう。
しかしながら、Aさんが取った「プレゼンの準備を入念に行う」という行動は、事態を良くしようと積極的な態度で取り組む “前向きな行動”といえる。これが『 “建設的な行動” に繋がるネガティブ思考』である。
つまり、Aさんは『 “建設的な行動” に繋がるネガティブ思考』であったからこそ、社内プレゼンに成功したと考えられるのである。
重要なのは「思考様式」ではなく「行動様式」
下図は「思考様式から導かれる行動様式」の分類図である。

右下の象限はネガティブ思考が “非建設的な行動” を導くパターンであり、上席者に社内プレゼンを命じられて「失敗したらどうしよう」などと考えた部下が「プレゼンなんて私にはまだ無理です」と断るケースなどが該当する。このような人材に対しては、「仕事の幅を広げるチャンスだから、前向きに考えて頑張りなさい」などとポジティブ思考の指導も有効だろう。
一方、右上の象限はネガティブ思考が “建設的な行動” を導くパターンであり、前述のAさんのようにネガティブ思考だからこそ「プレゼンの準備を入念に行う」などの “好ましい行動” を選択するケースが該当する。このような人材に対するポジティブ思考の指導は、“前向きな行動” を阻害してしまう懸念があるため、必ずしも有効とは限らない。
なお、左下の象限にあるように、ポジティブ思考が “非建設的な行動” を導くパターンも存在する。例えば、上席者に社内プレゼンの担当を命じられて「プレゼンが得意な私に最適な仕事だ。絶好のアピールの機会が訪れた」とポジティブに捉えていた部下が、「過信して十分な準備を行わない」という “後ろ向きの行動” を取り、プレゼンを失敗するようなケースが該当する。
以上から分かるように、思考様式はポジティブだから良く、ネガティブだから悪いといい切れるものではない。問題は思考様式自体ではなく、思考様式から導かれる行動様式にある。ポジティブ思考とネガティブ思考のいずれであっても、結果として “前向きな行動” が選択されていれば好ましいといえよう。一方、どちらの思考様式であったとしても、“後ろ向きの行動” に終始するようでは問題である。従って、ポジティブ思考の指導に当たっては、対象者の思考特性が行動パターンにどのような影響を及ぼしているかをよく観察することが不可欠といえよう。
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