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経営目標の達成とコンプライアンス

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


企業の不祥事が止まらない。「企業・組織のコンプライアンスは、一体どこに行ってしまったのか」と嘆く方も多いことであろう。企業がその目標を達成しようとするとき、コンプライアンス問題と衝突をすることがある。ところで、企業の経営に携わるリーダーは、経営目標の達成とコンプライアンスとの関係をどのように認識しているだろうか。



「高度な倫理観」が求められる企業コンプライアンス

一般的にコンプライアンスという言葉は「法令遵守」と訳され、「コンプライアンスとは法律を守って企業経営を行うこと」と解している経営者が多い。


しかしながら、それだけでは不十分であり「仮に法令に規定がない場合でも、業界内・企業間・企業内等に決め事やルールがあるのであれば、それをも守ること」が企業に求められるコンプライアンスの姿である。さらには「仮に法令にも業界内等にも規定がない場合であっても、倫理にもとる行動は決して取らないこと」まで含まれるのが、企業活動に要請されるコンプライアンスの考え方である。


これを『コンプライアンスの3階層』『企業倫理の3階層』などという。このように、企業経営上は「法令遵守」をはるかに上回る「極めて高度な倫理観」が社会から要請されている。そのため、『コンプライアンスの3階層』に抵触するような企業活動は大きな社会的批判に晒され、顧客離れなどの社会的制裁を受けることになる。


目標達成のために手段を選ばなくなる社員

企業が活動を継続するために、社員には売上目標・利益目標などさまざまな目標が課される。目標として極めて「高いハードル」が設定されることも少なくない。


リーダーが社員に「高いハードル」を設けたとき、社員の対応はさまざまである。なかには設定された「高いハードル」に対して、苦労に耐え抜いて工夫に工夫を重ね、自らの殻を破ってハードルをクリアする社員も存在する。


しかしながら、自分の殻を破れる社員ばかりではない。苦労に耐えられず、工夫が足りず、自分の限界を超えられない社員もいるものである。


そのような社員の中には、「目標達成を諦める者」もいれば、「手段を選ばずに目標を達成しようとする者」も存在する。その結果、コンプライアンスの第1階層、第2階層、第3階層のいずれかに抵触してしまうことがある。


ヒトの成長には「目標」が不可欠

このような説明をすると、「設定された目標が高過ぎるのではないか」という意見を耳にすることがある。確かに「達成が不可能なほど目標設定が高過ぎる」というケースがないわけではない。しかしながら、「高い目標設定」が必ずしも不適切とは言い切れない。


人が成長するためには、「目標」「経験」「プレッシャー」の3要素が必要である。「目標」「経験」「プレッシャー」のないところに、人間の成長はあり得ない。


リーダーが社員に「高い目標」を与え、社員がさまざまな「プレッシャー」と戦いながら目標を乗り越える「経験」をしたとき、その社員のスキルレベルは飛躍的に向上し、さらなるステップアップへの心と体の準備が整うものである。


つまり、社員に「高い目標」を与えることには、「企業業績を上げるため」という目的のほかに「社員の成長を促すため」という人材育成手法としての目的が存在する。社員にさらなる成長の場を提供するために、リーダーがあえて高い達成目標を掲げることもあるものである。


目標は “どのように“ 示すかが重要

ただし、リーダーが社員に「高い目標」を掲げる場合には、単に目標を示すだけでは不十分である。目標設定の際には、「どのような理由があろうとも、コンプライアンスに反する行為だけは断じて許さないこと」「コンプライアンスに反して達成した目標は一切認めないこと」「法律を守れば何をしてもよいわけではないこと」などを強く協調したうえで目標を示さなければならない。


単に「高い達成目標」を示すだけでは、リーダー自身は不正行為を直接指示していなくても、社員がリーダーの思いを誤って忖度(そんたく)した結果、コンプライアンス違反に手を染めてしまうという現象が起きやすくなる。つまり、リーダーが社員に目標を示す場合には、「何を示すか」以上に「どのように示すか」が極めて重要になる。


組織のリーダーたるもの、次代を担う若者たちに恥ずかしくない「襟を正した経営」を継続したいものである。経営目標の達成とコンプライアンスの維持は、決してトレードオフの関係ではない。

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