大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
組織リーダーは若年社員に対し、どのような「責任感」を求めるべきだろうか。「責任感」ある若手人材を育成するには、どうしたらよいだろうか。今回は、ミスやトラブルに直面した際にとるべき行動をテーマに、若年社員に「責任感」を教育指導する際のポイントを考察してみよう。
「『自分に責任がある』と認める力」を身に付ける
ビジネスパーソンは立場に応じた義務を果たし、自身の言動に対して責めを負う必要がある。しかしながら、業務でミス・トラブルが生じたとき、原因を自分以外に求めようとする者は少なくない。
具体例で考えてみよう。とある企業がエンドユーザーから広告の誤りを指摘された。原因は広告担当の社員が作成した原稿の誤りにあった。
そこで、広告部門を統括するリーダーが担当社員に経緯を問いただすと、社員からは次のような説明が行われた。「後輩社員に原稿のチェックを任せたが、彼女が誤りを見落としたことが問題である」「広告代理店が誤りの存在に気付くべきなのに気付かなかった。代理店の能力に問題がある」「些細な誤りをいちいち指摘するなんて、エンドユーザーの行動は常軌を逸している」。社員は責任転嫁に腐心し、およそ自身の原稿の誤りに言及する気配がない。
皆さんの職場でも、一度は見聞きしたことのある光景ではないだろうか。
この社員のように、問題は自分以外にあるとする考え方を『他責志向』という。一方、問題は自分自身にあるとする考え方を『自責志向』と呼ぶ。ミス・トラブルの発生は、『他責志向』では根本的な解決を図れない。失敗を招いた真因を解消できないからである。
そのため、『他責志向』の下では同様の問題が連続する傾向にあり、また、再発したミス・トラブルが隠蔽されることも少なくない。その結果、『他責志向』の社員が多いほど企業・組織の業績は悪化しやすく、『他責志向』が企業不祥事・組織犯罪の温床になることさえあるものである。
従って、若年社員に「責任感」を伝える際には『他責志向』の問題点を指摘し、「『自分に責任がある』と認める力」の重要性を説くことがポイントとなる。
『非建設的自責観』に陥らないことも重要
ただし、自身に起因する失敗に際して、「やっぱり私はダメな人間だ」「私の能力ではこの職場でやっていけない」などと、必要以上に悲観的になることは避けなければならない。このように、自分自身を精神的に追い込んでしまう考え方を『非建設的自責観』などという。
『非建設的自責観』は2つの問題を内包している。1番目の問題は、失敗の解決に結び付かないことである。
職務でミス・トラブルが発生した際には根本的な原因を冷静かつ真摯に見つけ出し、解消・削減することによって再発を防ぐことが重要になる。ところが、『非建設的自責観』にとらわれている場合には、自分自身を否定するマイナス思考が強く作用しているため、失敗の真因と冷静に向き合える心理状態を作れない。真因が解消されなければ、同様の失敗が繰り返されるのは時間の問題である。
2番目の問題は、当該社員の「心の健康」を阻害しかねないことである。
「やっぱり私はダメな人間だ」などの思いに駆られながら職務に当たっていて、心身ともに健康的な生活を送れるはずがない。業務に際して社員の安全・健康を守ることは、企業・組織に課された法律上の義務でもある。従って、『自責志向』を強調し過ぎるあまり、若年社員が過剰な悲観的思考に陥ることのないような配慮も欠かせないであろう。
業務における失敗の発生は、多くの場合、飛躍のチャンスでもある。失敗の原因を解消することにより品質改善や生産性向上、機会損失の解消に繋がり、企業活動のアップグレードが実現できるからである。従って、『自責志向』を指導する際には、「職務における失敗の意義」も忘れずに教育することが必要といえる。
リーダーの言行不一致は若年社員に伝播する
若年社員に行う教育は、OJTやOff-JTの場に限られるものではない。リーダーの日々の一挙一動が、若年社員に対する教育の役割を果たしている。部下は上司の言動を思いのほかよく観察しており、マネをする傾向にあるからである。
リーダーの日々の “好ましい言動” は、若年社員が模倣することにより教育効果が発揮される。ただし、部下はリーダーの “好ましくない言動” も模倣してしまう。
リーダーが『自責志向』の重要性を声高に唱えたとしても、リーダー自身に起因するトラブルの際に原因を他者にばかり求めていては、その姿を目の当たりにした部下もトラブル発生時には同じ言動をとるようになる。その結果、リーダーが指導する『自責志向』は形骸化し、図らずも『他責志向』の職場風土が醸成されるのである。
立場に応じた義務を果たし、自身の言動に対して責めを負う。「責任感」ある言動の励行は、必ずしも容易ではない。しかしながら、若年社員の心に建設的な『自責志向』を育みたければ、リーダー自身が建設的な『自責志向』に基づいて日々の業務を遂行し続けなければならない。その姿こそが、最も教育効果の高い「責任感」の指導といえよう。
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