top of page

「若手社員の早期離職」を削減するにはどんな人材育成施策が必要か

更新日:2月25日

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


現在、多くの企業が人材確保に課題を抱えている。とりわけ、若年社員の早期離職に頭を悩ませる事例が少なくないようである。どうすれば、若い社員の定着率を向上させ、自社の次代を担う人材として活躍を促すことができるのだろうか。若年社員の早期離職を削減する施策について、人材育成面からのアプローチを考察してみよう。



若年者の早期離職の主要原因は「人間関係」「勤務待遇」「職業適性」

若年者の早期離職が増加傾向にあるといわれて久しい。厚生労働省が発表した『平成30年若年者雇用実態調査の概況』によると、初めて勤務した企業を退職した15歳から34歳までの労働者のうち、同企業を3年経たずに退職した者は6割を超えているという。



また、初めて勤務した企業を勤続3年未満で退職した15歳から34歳までの労働者について、退職理由の1位から3位までを勤続期間別に整理すると次のとおりである。



上表を見ると、勤続3年未満で退職した若年者の主要な退職理由は、以下の4点に集約されることが分かる。


① 人間関係が良くなかった。

② 労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった。

③ 仕事が自分に合わない。

④ 賃金の条件が良くなかった。


つまり、若年者雇用では「人間関係」「勤務待遇」「職業適性」の3点が早期離職を誘発する原因になりやすいといえる。


ここでポイントになるのは、「勤務待遇」さえ良ければ早期離職を削減できるとは限らない点であろう。どんなに労働時間や賃金などの条件が良かったとしても、上司や先輩社員などとの人間関係や若年者が考える自身の業務適性に不安・不満が生じれば、早期離職は削減が困難である。


従って、可能な範囲で「勤務待遇」の改善を図ることに加え、「人間関係」「職業適性」についても何らかの手立てを講じる必要があるといえる。その際に有力な手段となり得るのが、教育研修による人材の育成であろう。


コミュニケーション教育で「良好な人間関係」の構築を

人間関係に対する若年社員のマイナス感情を払拭するには、職場のコミュニケーションを見直すための教育研修に取り組むことが有効である。意思疎通の手段であるコミュニケーションは、人間関係に多大な影響を及ぼす強力な因子だからだ。


コミュニケーション教育の中で指導すべき内容は数多いが、最初に取り組むべきは挨拶に関する教育研修である。


人間には気持ちの良い挨拶をする相手に好印象を抱き、好感を持つ特性がある。そのため、そのような挨拶を交わす間柄にはお互いの存在を好意的に捉え、肯定的に理解する「良好な人間関係」が育まれやすい。つまり、気持ちの良い挨拶は「良好な人間関係」を構築する上での、最も基礎的なコミュニケーションスキルなのである。


また、人間関係には環境を左右するという特徴がある。そのため、お互いを肯定的に理解する「良好な人間関係」の人材が多い職場は、明るく積極的で協力的な就業環境になるものだ。その結果、若年社員の心理的安全性が醸成されやすくなり、早期離職も削減が期待可能になるのである。


『好ましい挨拶』の励行は思いのほか難しい

ただし、単に挨拶の文言を口にするだけで、気持ちの良い挨拶になるわけではない。挨拶には人間関係に好影響を与えられる『好ましい挨拶』と、そのような効果があまり期待できない『普通の挨拶』の2種類がある。従って、コミュニケーション教育では前者の指導が必要となる。


『好ましい挨拶』とは、以下の5条件を全て充足した挨拶である。


■『好ましい挨拶』の5条件■

① 相手が聞き取れる声の大きさで挨拶をしている。

② 相手の目を見ながら挨拶をしている。

③ 挨拶の際の表情が笑顔である。

④ 挨拶の文言を省略していない。

⑤ 相手よりも先に挨拶をしている。


挨拶を変えることは、習慣を変えることである。従前の習慣は体に染み込んでいるものなので、これまで『好ましい挨拶』を実践していなかった人材が自身の挨拶の習慣を変えることは容易ではない。年齢の高いベテラン社員ほど、実行は困難なものである。


このような事情があるので、『好ましい挨拶』は1度や2度の研修で身に付くものではない。仮に、一時的にできるようになったとしても、時の経過とともに以前の挨拶に戻りがちである。そのため、『好ましい挨拶』ができる人材を育成するには、挨拶に関する教育研修を継続的に繰り返し実施することが不可欠といえる。


若年社員に指導したい「職業適性」の本質

「仕事が自分に合わない」との思いから退職する若年社員を削減するには、若年社員への教育研修の中で職業適性に関する本質的な考え方を指導することが必要である。若年社員は適性に関する誤った認識に捉われがちだからだ。


職業適性は仕事を遂行する “能力” と “領域” が拡大しなければ、的確に認識できるものではない。業務遂行の “能力” “領域” を拡大させるには、全力で仕事に取り組む経験を長期にわたり数多く積むことが不可欠である。


そのため、自分の適性に気付けるようになるには、かなりの時間を要するものだ。「社会に出て20年働いた後、やっと自身の適性 “らしき” ものに気付いた」などの話は枚挙にいとまがない。それにもかかわらず、業務遂行の “能力” “領域” が開発の途上にある若年社員が、わずか3年程度の職務経験で自身の職業適性を明確に判断できるものではない。


ところが、多くの若年社員は適性に関するこのような仕組みについて、知識を持ち合わせていない。そのため、現在の仕事に全力で取り組む前に、「この仕事は自分に合うか?」と考えがちだ。その結果、「自分に合う仕事は他にあるはずだ」などと短絡的に決めつけてしまうことが少なくない。学生時代にキャリア教育を受け、自身のキャリアプランを明確に持っているが故にこのような思考に陥るケースも多いようである。


従って、「本当の職業適性は長期にわたり全力で仕事に取り組む経験を多数積んだときに、初めて気付けるものであること」を教育することが重要といえよう。その結果、適性の本質を理解した若年社員が一人でも多く育成されれば、「仕事が自分に合わない」との早計な判断から離職を決意する若者の削減も期待できるであろう。


【参考】


 

『署名原稿提供サービス』のご案内


『署名原稿提供サービス』は、組織・人事の専門家が執筆したコラムを貴社のウェブサイトやその他の広報・広告媒体、各種業務資料などに掲載できる経営支援サービスです。詳細は以下をクリックしてどうぞ。



© 2007 ConsultingHouse PLYO

bottom of page