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リーダーが「不服そうな部下」と接する法

                       大須賀信敬(組織人事コンサルタント)


「リーダーの指示が納得できない」と感じたときに、指示を受けた部下が“不服そうな態度”を取ることがある。「それはおかしいと思います」などと明確な“不同意の意思表示”をするかもしれない。部下のこのような態度に直面したときには、どのようなコミュニケーションが有効なのだろうか。



“不同意の意思表示” には「どうしたらよいと思うか」を聞く

部下の視点で見たとき、企業経営は必ずしも自分の思い描くとおりに営まれるとは限らない。たとえば、営業成績の不振のため、トップの指示により急きょ営業方針が大転換されたとする。数字が上がらないなりにも頑張っていた営業現場の社員にすれば、今までの努力を否定するかのような営業方針の大転換には納得がいかない。そのため、リーダーから方針転換を告げられた部下の中には、「なぜ、方針を転換しなければいけないのですか?」などと、異議を唱える者も出てくるものである。


このようなとき、「トップの命令なんだから、いいから言われたとおりにやれ!」などと、力で押さえ付けようとするのは決して好ましい手法ではない。仮に「いいから言われたとおりにやれ!」と押さえ付けてその場は収まったとしても、部下の心の中には納得できない “マイナスの気持ち” がくすぶり続けることになる。その結果、営業方針転換後に部下が “前向き” に動くことは期待しづらくなるものである。「営業方針が転換された理由」をキチンと説明するリーダーも多いだろうが、今までの努力が否定されたかのような思いを抱いている部下にとっては、必ずしも納得できる説明になるとは限らない。


このような場合に有効なコミュニケーションのひとつに、「では、どうしたらよいと思う?」と、部下自身に意見を求める方法がある。「では、どうしたらよいと思う?」と問いかけられた部下は、「なぜ、方針を転換しなければいけないのですか?」と異議を唱えていた “部下の視点” から、「自分がリーダーであればどのような意思決定を下せるのか」という、今までよりも “高い視点” で物事を考えざるを得なくなる。


部下が “不同意の意思表示” を示すときには、他に取るべき手段が存在しないにもかかわらず「自分の意に沿わない」などの理由で異議を唱える “非建設的な反対行為” に及んでいるケースが少なくない。しかしながら、「では、どうしたらよいと思う?」と問われ、部下が視点を一段挙げて考えるきっかけを作ることで、“非建設的な反対行為” をしている自分自身に気づかせることが可能になるのである。その結果、部下の心の中に芽生えた「自分の意に沿わない」という “マイナスの感情” が少しずつ浄化され、その後の “前向きな行動” が引き出しやすくなるのである。


“不同意の意思表示” でリーダーの目が覚めることも

「では、どうしたらよいと思う?」と問われた部下が、リーダーが思いも及ばなかったような “建設的な意見” “重要な視点” を提示してくるケースもある。ときには、上席者からの指示に対して部下から発せられた「そのような行為はすべきではないと思います」という声が、企業をコンプライアンス違反の道から救い出す貴重な提言になることさえあるものである。


企業内では売上・利益の増大、クライアントとの関係性構築などを理由に、納得しがたい事柄への取り組みが要求されることがある。納得しがたい事柄の中には法令違反、契約違反、コンプライアンス違反に該当するような事項が含まれていることも少なくない。


現在、わが国を代表する大手企業の長年にわたる不正行為が大きな波紋を呼んでいる。無資格者に検査を行わせ続けた自動車メーカー、品質検査データを改ざんして出荷し続けた鉄鋼メーカーなど、企業の不正行為がメディアで取り上げられない日はないほどである。いまだに発覚はしていないものの、同様の行為に手を染めている企業は少なくないかもしれない。


もしも、「そのような行為はすべきではないと思います」との部下の声があるのであれば、その声にしっかりと耳を傾けるリーダーの行為が、企業を崩壊から救う結果になるかもしれない。「そのような行為はすべきではないと思います」との部下の声にリーダーが応えなければ、その部下は二度と “好ましい行動” を起こすことはないであろう。


「話を聞く」という行為は「話をする」という行為以上に重要なコミュニケーション手段である。部下の不同意に対しては、意見を促すことで部下の視点を挙げさせ、“建設的な意見” “重要な視点” が得られたときにはしっかりと耳を傾けたいものである。

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