大須賀信敬(組織人事コンサルタント)
入社3年以内に会社を退職する若者が後を絶たないと言う。そのような早期離職者の中には、「この企業の仕事は、自分には向かない」との思いを持った者も少なくないようである。それでは、どうすれば若年社員は、「自分に向く仕事」に出会うことができるのだろうか。今回は、職業適性を見極める仕組みについて考えてみよう。
「自分に向く仕事」を求めて転職を繰り返す若者
近時、若年社員の早期離職の削減を経営課題とする企業は少なくない。社会に出て初めて入社した企業に長く留まることなく、早々に見切りをつけて退職する若者が多いからである。そのような若者は少なからず、「この企業の仕事は、自分には向かない」「自分に合う仕事が、他にあるはずだ」などの思いを持って退職を決意するようである。
ところが、自分に向く仕事を求めて転職したはずの若者は、新しい職場でも「この企業の仕事は、自分には向かない」などの思いを持ちがちである。
その結果、「向いた仕事を求め、転職を繰り返す」「向いた仕事に就くことを諦め、転職先に残る」「何度転職しても向いた仕事を見つけられず、定職に就かなくなる」などの現象が散見されている。
なぜ、これらの若者は、自分に向く仕事に出会えなかったのだろうか。
向く仕事は『探して見つけるもの』ではなく『後から気付くもの』
これらの若者は、大きな勘違いをしている。自分に向く仕事は『探して見つけるもの』だと考えているからである。
残念ながら自分に向く仕事は、求人情報を探して見つけるような性格の代物ではない。『後から気付くもの』だからである。長期間に渡って仕事に携わった結果として、事後に自分の職業適性を認識できるようになるというのが、自分に向く仕事の現実と言える。
ただし、自分の職業適性は、長く働いていれば必ず認識できるようになるわけではない。自分に向く仕事に「気付ける働き方」と「気付けない働き方」がある。
従って、若者が自分に向く仕事に出会うためには、自分に向くかという視点で求人情報を検索するよりも、いかにして現在の職場で自分に向く仕事に「気付ける働き方」をできるかがポイントになる。
仕事の「遂行能力」「実行領域」の拡大が職業適性に気付かせる
自身の職業適性は、仕事の「遂行能力」と「実行領域」が拡大したときに、認識が可能になる。仕事を進めるさまざまな能力が向上し、実行可能な仕事の領域が広がると、初めてヒトは特定の仕事に対して「向いている」という感情を抱きやすくなる。
例えば、自身の職務遂行能力を活かせる業務に対して「向いている」と感じたり、自分が実行可能な仕事に対して「向いている」と感じたりするのである。自身が今まさに取り組んでいる仕事に適性を感じることもあれば、そうではない仕事に適性を感じるケースも少なくない。
しかしながら、仕事の「遂行能力」「実行領域」がともに未発達な段階では、このような現象は発生しない。職務遂行能力が未熟であれば能力を活かせる業務もほとんどなく、実行可能な業務領域が狭小であれば、それらに適性を感じる確率も低いからである。
若年社員は、仕事の「遂行能力」「実行領域」のいずれもが未発達である。換言すれば、自身の職業適性に気付く能力が開発されていないのが、若年社員の特徴と言える。それにもかかわらず、適性の有無を判断しようと試みて「現在の仕事に適性なし」との回答に帰結している点が、早期離職する若者の問題点と言えよう。
このような判断で転職を何度繰り返しても、残念ながら自身の職業適性に気付ける日が到来することはない。
今の仕事に全力を尽くすと「向く仕事」が見えてくる
自分に向く仕事に「気付ける働き方」とは、仕事の「遂行能力」「実行領域」が拡大できる働き方である。
ただし、単に日々の仕事を淡々とこなしているだけでは、仕事の能力や領域が拡大することはない。全力で仕事に取り組む経験を、多数積むことが必要になる。つまり、長期間に渡って仕事に無我夢中で取り組む行為こそが、自分に向く仕事に「気付ける働き方」なのである。
しかしながら、若年社員は仕事に夢中で取り組む前に、「この仕事は自分に向くか?」と考えてしまう。そのため、どの企業に転職しても自身の適性に気付く力を身に付けられず、仕事にやりがいや張り合いを感じることもままならないのである。自身のキャリアプランを明確にしているが故に、この問題に陥る若者も少なくない。
自分の職業適性に気付くには、時間が掛かるものである。「社会に出て30年働いた後に、やっと自身の適性らしきものに気付いた」という話も、決して少なくない。それにもかかわらず、十分な職業経験を持たない若者が「この企業の仕事は、自分には向かない」などと判断するのは、あまりにも早計である。
人事部門を所管する皆さんには、自社に入社した若者が転職の悪循環に陥ることのないよう、「現在の仕事に全力で取り組み続ける姿勢が、自分の職業適性に気付ける最も効果的な手段であること」をぜひ指導していただきたい。
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